歳時記 of pascal

社員が語る ちょっといい話です

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ファンタジーに見る人と企業  T.T 2010.02.16

ドイツ児童文学作家 ミヒャエル・エンデ

「時間どろぼう」というものを知っているだろうか。ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』に登場する悪党たちである。この悪党達の仕事は、文字どおり人間から「時間を盗む」ことだ。時間を盗むというのはなんともファンタジックな話だが、そこにはいかにもリアルな人間像が描かれる。
 たとえば、床屋のフージー氏。彼は貧乏でも自分の仕事の腕に自信を持ち、客とのお喋りが好きな明るく楽しい人間だった。しかし、時間を盗まれたことによって、仕事に対する誇りや楽しみを失い、いつも不機嫌な顔つきで事務的に客をさばいていくような、以前とはまるで正反対の人間になってしまう。丁寧な仕事が信条の道路掃除夫ベッポは、仕事への愛情を捨て去りせかせかと働くようになった。創意工夫し、夢中になり、楽しみながら遊んでいた子供達は、やれと命じられたことを嫌々ながら面白くなさそうにやるようになってしまった。
 彼らは時間どろぼうに時間を盗まれることによって、愛情や楽しみがあり、心にゆとりを持っている充実した時間を失い、つまらない、無気力な空虚な時間に支配されるようになったのだ。
 現代の我々を風刺したようなこの人物達を通して、エンデはこの物語を読む子供たちに人間の有り様を諭したかったのだろうか。

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子供たちの将来の夢

 以前、新聞の読者投稿欄(1月13日付・読売新聞)で、親類の、小学校低学年の子供たちに将来の夢を聞いたら、「「公務員」「特にない」のほか、「正社員」と言う答えもあり、驚いた」という男性の話が掲載されていた。この男性、「スポーツ選手はどう」かと聞いたところ、子供に「現実を見なきゃだめだよ」と諭されたという。
 世は不況の時代である。デフレである。2008年のいわゆるリーマン・ショック以降、雇用情勢は依然厳しく、厚生労働省の発表では、2009年の平均有効求人倍率は0.47倍で過去最悪を更新、総務省発表の平均失業率では5%台を記録した。派遣村や大学生の内定取り消しが話題となり、果ては「派遣切り」が流行語になる。消費者物価の下落は止まらず、ファストファッションと呼ばれる低価格のカジュアルブランドが人気を集めている。海外の高級ブランド店がひしめく銀座でさえ、今ではカジュアルブランドの台頭が激しい。

仕事への情熱

 昨今のような暗い世相では、小学生といえども夢を見ている場合ではない、といったところだろうか。世知辛い世の中になってしまったものだ。
 前述の男性は、投書を「今の日本にとって必要なことは、子供達が夢を持てる社会にすることではないだろうか」と結んでいる。夢を持たず、割切った思考しかしなくなった子供達は、やがて成長し社会に出たとき、「時間どろぼう」に楽しみやゆとりのある充実した時間を盗まれた子供たちのように、唯々諾々と命じられたことしかできない人間になりはしないか。あるいは、仕事への愛情と誇りを失ったフージー氏やベッポのように、自らの仕事に情熱を抱くことができず、機械的に作業をこなすだけの人間になりはしないだろうか。

空飛ぶホテル

 柔軟な思考、発想力、コミュニケーション能力。従来、企業が求める人材とはそういうものを持っている人間ではなかったか。そのような人材を育む第一歩として、子供たちに夢を与えるような企画や構想を、企業が率先して発していくのはどうだろう。たとえば、ロンドンの企業がプランを発表した「空飛ぶホテル」(「空飛ぶホテル」で世界をクルーズ 2月6日付・CNN.co.jp)のように。
 「天空の城」ならぬ「空飛ぶホテル」は、「高さ約265メートルの縦型飛行船」で、「搭乗できるのは乗員20人、乗客100人までとし、広々とした空間にレストランやバー、ラウンジなどのスペースを設けている」という。まるでファンタジーから抜け出してきたような乗り物だ。夢がある。
 この乗り物はしかし、「現時点では制作に膨大なコストがかかると見られ、実用化までにはしばらく時間がかかりそう」なのだとか。だが、「なんだ、そうなのか」と落胆することはない。ここで大切なのは、それがすぐにも実現できるかどうかではないのだ。豊かな思考は新たな発想力を生む。大きな構想を掲げ、それに夢を見出した子供がやがて大人になり、それを実現する。そうした人材の循環が生まれることが大切なのではないか。

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就職氷河期の再来

 『モモ』の世界で、「時間どろぼう」に時間を盗まれた人々を救ったのは、空想好きな一人の純粋な少女、「モモ」であった。
 国内に目を向けてみれば、日本航空の破綻やトヨタのリコール問題など、世界に名だたる大企業にも暗雲がたちこめている。就職氷河期の再来と言われ、リストラや賃金カットの波は未だ収まる気配はない。これから、子供に「将来の夢は正社員」などと言わせないような、「モモ」になれる企業は出てくるだろうか。自らの命をつなぐため、人々から豊かな時間を奪っていった「時間どろぼう」ではなく・・・。